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ルーズソックス再流行!?

先日、東京の某テレビ局から「ルーズソックスの再流行に関する番組を作るので監修をお願いしたい」という依頼が来た。なぜこういう変な依頼が来るのかといえば、私が女子高制服のデザインと着こなしを40年ほど観測していて、これまでに制服関連の単行本を10数冊出しているからだろう。変なことは変なやつに聞け、というわけだ。

 

テレビ局が今こういう企画を立てる理由もわかる。少し前にネットニュースで「現代の女子高生にルーズソックス人気が再燃」という記事が出た。ツイッターで話題になり、ワイドショーなどでも取り上げられた。ルーズソックス全盛期の90年代に女子高生だった母親世代の流行を現代の女子高生が再発見した結果、「平成ギャルのシンボル」ルーズソックスが令和に復活…というストーリーだ。テレビ局から送られてきた番組の企画書も、そんな筋立てになっていた。

 

実際、ルーズソックスは間違いなく90年代制服ファッションのシンボルだった。極端なボリュームを持つこの奇妙な靴下は、ハイソックスにその座を譲る21世紀初頭まで、約10年もの長きにわたり女子高生の足元に君臨し続けたのだ。

 

当時、ある大手学生服メーカーの人と、この流行について話したことがあった。「制服メーカーとしては認めたくないが、今の短いスカート丈とルーズソックスのボリューム感は完璧なバランス。流行は当分続くだろう」と言っていたのが印象的だった。

 

さて、そんなルーズソックスが四半世紀を経て、令和の現代に復活したという。テレビが食いつくのもわかる、面白い話題だ。それが本当なら。

 

本当のところを言えば、残念ながらルーズソックスは復活していない。制服ファッションは全国的に「短いソックス」が定番。ルーズソックスで通学している生徒は、まず見かけない。その理由は単純で、現在主流となっている長めのスカート丈にルーズソックスを合わせるという着こなしは、バランス的にありえないからだ。

 

いや、最近ルーズソックスを履いた女子高生を見たぞ、という人もいるかもしれない。たしかにルーズソックス姿の女子高生は、今に限らず何年も前から地味に存在する。ただし彼女たちの着用シーンは、たとえば友達と制服ファッションでテーマパークに遊びに行くときだったり、規則の緩い学校の生徒があえてコギャル風のスタイルで渋谷を歩いたりといったケースがほとんど。それはルーズソックスを「レトロなネタ」として楽しむ一種のコスプレ行為であり、日常的な制服ファッションとは別種のものだ。これを今さらのように「人気再燃」というのは、どう考えても無理があるだろう。

 

そんなわけで冒頭のテレビ局からの依頼なのだが、今ここに書いたようなことを担当者に伝えたところ「ちっ、面倒くさいやつ」という感じで、ぱたりと連絡が途絶えてしまった。そう、リアルは意外と面白くない上に面倒くさいものなんです。お役に立てず、すみませんでした!

 

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